「かたよ、え、と…」
「だってひのふのみのよのいつむーなな…8割近う名前がかぶってへん?」
「そ、それはー…」
「これ、どないな仕事しはったん」
座席を移動した司会者コンビに両側から攻められ、キョーコは目を白黒させる。
「え?あの、お食事のお世話とか、そう、代マネみたいなお仕事ですっ」
やっと言うところに、かつみがまたも砲撃を放った。
「食事の世話て、マネージャーの仕事か?」
「ですから、ほっとくとご自分ではちゃんと召し上がらない方なので」
「えー、この人、そなん?意外やわあ、そない手ぇかかる人に見えへん」
要子の言葉に、観覧席からざわざわと疑問の声が湧き上がる。それに応え、芸人はさらりと髪を流して微笑んだ。
「ああ、皆はん気にしてはりますなあ」
「そらなりますやろー、うちかて客やったら誰やねんゆうてブーイングしとるわ」
腰に手を当てるかつみに、要子はうんうんと頷きかける。
「そぉんなかっちゃん、やのうて、お客はんらの気持ちにお応えして!!」
「おお!?」
「え!?」
「依頼主さん、どうぞー!」
さっと立ち上がるツッコミ役が、大きく空を手で薙いだ。大仰に驚いてみせるかつみと純粋な狼狽を表すキョーコ、そして勿論観衆の視線を集め、彼女はステージ奥のゲスト用アーチを指す。そこに現れたのは。
今日も僅瑕なき容貌にやわらかな笑みを湛え、優雅に長い脚を運ぶトップ俳優。
「つ、敦賀さん!?」
キョーコがソファから爆ぜるように立ち上がる。
「こんばんは」
ぎゃあああああ、と割れた悲鳴のいくつも上がる中、敦賀蓮はにっこり微笑んだ。
「こ、こんばん…」
「こんばんは!」
「おいでやす~」
腰の引けているタレントに代わり、司会の二人がここぞと前に出る。
「はい、実はですねえ。京子はんの事務所の方に、京子はんをよう知っとる人貸してんかて頼んでみたら、結構な大物が釣れてしまったゆう…うちも意外やわー思てたけど、こういうわけやったんやねえ」
要子がラブミースタンプ帳を取り上げ、ぴらぴら振った。開いたページに百点のスタンプと敦賀蓮の署名、そこめがけてカメラがぐいと寄っているはずだ。
「ええ、まあ。同じ事務所の後輩ですし、彼女は信頼できる仕事をしてくれますから」
蓮が笑う。この場には琴南奏江の方がふさわしくもあろうところ、裏に眼鏡の青年の暗躍があることはおくびにも出さない。
「ふわー…
「って。ほな、ようちゃん敦賀はん来るて知っとったんかいな。ひと悪いわー。うちにもゆうてくれとったら、もっと化粧に気合入れて来よったのに」
かつみが肘でつつくので、その相方は鼻から息を噴いて首を振った。
「そない無駄な努力はよしときいな」
「何やのんシツレエやね」
「なんも。かっちゃんはそのままが一番かわええゆうことや」
「そうそう、かつみさんにそれ以上魅力的になられては、俺も困っちゃいますからね」
さらりと流す要子に俳優が笑って言葉を添えるので、言われた方は大いに照れつつキョーコににじり寄る。
「ややわ、二人して。なあ京子はん、敦賀はんていつもああなん?紳士的ゆうたら聞こえええけど、実のとこタラシゆわへんの、あれ」
「タ」
似たようなことを蓮に言った覚えがある。タレントはぎくりと肩をすくめた。反射的に蓮を見遣れば、鉄壁の笑顔が輝きを強めるではないか。
「嫌だな、かわいい後輩に変なことを吹き込まないで下さいよ?」
「う、あの。敦賀先輩は大変紳士でいらっしゃいます、ハイ…」
耳の垂れた猫のようにキョーコが言うと、今度は要子が彼女に身を寄せる。
「ほんまに?京子はんをよう知ってはる人てことで来てもろてんやから、京子はんも敦賀はんをよう知ってはるんちゃう?内緒にしとくさかい、ここで本音呟いてみいひん?」
「内緒って、無理がありすぎます~…」
観覧席を掌で指す京子の様子に、落ち着き始めていた観衆の間に笑い声が渡る。要子も笑ってから、正面に向き直った。
「まあ、奥ゆかしい京女の京子はんですけども。先輩の口からは、どない語られるんでしょうね~。楽しみやわあ」