「ははあ、これが噂の」
スバラシク目に痛いピンクの表紙をめくると、中は書きやすいようにとの配慮か普通に白かった。パラパラめくられる帳面を、キョーコはある種の感慨をこめて眺める。
本日、京子はとあるトーク番組のゲストに呼ばれたところ、これまでの活動について話すことになり。
まだ芸能界に入ってやっと1年経ったばかりの彼女は、そもそもの端緒である“あの部”に触れることになったのだった。
「いやー、えらい豪儀やわー。なんでもどピンクかいな。ラブミー部、ゆうネーミングがまたすごいやん」
二人組の女性漫才師の片割れが笑えば、その相方が
「ゆうたらんとき、失礼やで」
「せやかてようちゃん、うちはちゃあんと気ぃ遣ってんやで。悪趣味とかゆうてへんもん」
「こら、かっちゃん。
「すんまへんなあ京子ちゃん、うっとこの相方口が悪うてうちも困ってんねん。本人悪気はあらへんさかい、カンベンしたってんか。ほんま、いくらほんとやゆうても何でもゆうてええってことないっちゅうねんな」
フォローのような落としにかかるから、京子としては苦笑するほかない。
「ええですよ、うちもほんまや思いますさかい」
「あ。そや、京子さん関西やった。京女やん。ほんで京子やのん?」
「ええまあ…」
詳しい経緯は胸のうち、キョーコはくるりと目を動かして頷いた。その様子に目ざとく気づいたようちゃん、要子がちびりと悪い笑みをこぼした。
「なんや、なんか他にもありそうやね?芸名つける時のマルヒエピソードなんてもんあるんやったら、この際白状してもらいまひょか」
「そないゆわはっても、何もおへんえ。うち知らん」
「んまーすっとぼけはって。おんなじ関西弁やゆうても京都弁でゆわれるとなんやハラ立つわー」
「勘弁してください…」
笑い出したところに、もうひとつの声が割って入った。ラブミー帳をめくっていたかっちゃん、かつみが妙に甲高い唸り声を発したのだ。
「んんん~?」
「なんよ、かっちゃん。便秘か?」
「もう3日目やねん…てちゃうわ!!
「そやなてな、ようちゃん。このスタンプ帳、すっごいで」
「それさっきも聞いたやんか」
ツッコむ相方に、かつみはちっちと指を振った。
「ちゃうねん、豪華やっちゅうてんねんよ」
「だから聞いたて」
「だーかーらー。見てみ。ここにスタンプ押しとる人の名前がな、すごいんよ」
「どれ」
要子はひょいとスタンプ帳を覗き込み、そのまま唸った。
「んんん~?」
「な、大物ばっかやろ」
なぜかかつみは自慢げだ。
「えーと…」
過去のアレコレを想起するのか、キョーコはこめかみにひとすじ汗を浮かべた。
「ほんまや。初っ端は知らんけど、人気アイドルに映画監督に人気俳優に…てこれ」
要子が軽く首を傾げながらゲストに目を戻した。しかしその瞳には、追及の光がちら見える。
かつみはその横で腕を組み、コクコクせわしなく頷いた。
「な、けったいやろ」
「けったいやね」
「え、と…な、何がでしょう…?」
「ゆうてええのん?」
要子がにやりと笑う。しかしキョーコが返事をするより先に、かつみの方がずばり切り込んだ。
「なんでこないに、偏ってんのん?」
「うっ」