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唐紅 -宝物-

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逃れられない想い sideキョーコ 前編


 やっぱり愛なんて信じないわ!!っていうか、本当に私っていうバカ女は、何回騙されれば気が済むわけ!?この私のバカ女!!バカバカバカ~~~~ッ!!!!
 もう、も~~~~~う、絶対に!!絶対に男なんて信用しないわ!!特に顔のイイ男!!無駄に綺麗な顔しているからって、女が全員自分に堕ちるとか思ってんじゃないの!?世の中はね、あんた達だけで回っているんじゃないのよ!!ちょっと顔がいいからって何様のつもりなのかしら!?いい気になるんじゃないわよ~~~!!!!
 うぅぅ…憎んでも憎みきれないわ…!!今後は絶対に!!仕事以外で会ったりなんかしない…!!幸い、今日でやっと『密やかな想い』の番宣も終了するし、これで私はこの男の傍にいる必要がなくなる…!!
 これであなたとの関係は切れるわ!!そう思ったら心から笑顔を浮かべることができる。あぁ、なんて清々した気持ちなのかしら…。今日は最高の一日ね!!

 私の心をかき乱すだけかき乱して、ヤリ逃げしやがったにっくき男…!!
 敦賀蓮!!
 
…いくら私が何も知らないからって、からかうのも大概にしなさいよ……。

あなたなんか私の脳から全消去してやるわ!!



…そう思っていた私。最後の番宣となるテレビ番組の仕事が終わり、「お疲れ様でした!!」と共演者の方々にあいさつをして気持ちよくその場を去ろうとしていたのに…。

彼は、そんな私を逃がすことなく捕まえて…そして私が必死に逃げ出した彼の『檻』の中に再び私を押し込めようとした……。



*****

「あっ…あぅぅぅ…。」
「さぁ、最上さん。ゆっくり話、しようか?」
 
 鍵をかけられる前に『檻』から抜け出し、逃げに逃げて一週間。
 『ラブミー部室』という名の私の居場所の一つに、ノックもなしに乗り込んできた大きな影。
たった一つの出入り口の前に立つ長身の男性は、扉に凭れかかり、爽やかな笑顔をこちらに向けている。彼が紡ぐ言葉はとてつもなく穏やかなのに…すごみをきかせているようにしか聞こえないのはどうしてかしら…。

「あっ、あぁぁ……。」
「別に取って食おうってわけじゃないんだから。そこまで怯えられるのは心外だなぁ…。」
「とっ、取って食おうとなさったじゃありませんか…!!わっ、私!!本気で食べられるかと思ったんですよ……!!」

 8月から放映されている映画、『密やかな想い』。芸能界1イイ男、抱かれたい男№1『敦賀蓮』と同じく№2『古賀弘宗』…そして、なぜかそんな二人に愛され、二人の間で揺れ動くバカ女役として選ばれたのが私、『京子』で…。

 映画の撮影自体は、新開監督の指揮下、優秀なスタッフさんが揃い、とにかく旬の俳優で高い演技力を持つ主演のお二人に引っ張られる形で、それはそれはスムーズに進んでいったのよ。
 …でも、撮影が順調に進むのに反して…私と敦賀さんの関係は、悪化の一途を辿っていた。
 お傍にいると不機嫌になられる敦賀さんから、決定的な言葉を告げられることが怖くって、避けるようになった私。…そんな私に、ぶつけられた敦賀さんの想いは、信じられるものではなかった。そして、混乱する私に施された破廉恥な行為の数々…。そのひとつは、私の息の根を止めかねない、激しすぎる行為で、意識を手放してしまうほどだった。 

……なのに。それらは全て冗談であったことが判明する……。

 あぁ…まだ嫌われていると思っていた頃、気付いてしまった想い。秘められないとさえ思いながらも、それでも密やかに想うことを許してもらおうと思っていたのに…。
 全ての想いが泡となって消え失せて、そして後に残ったものは彼に対する憎しみと…自分のバカさ加減に対する憤りだけだった…。

「最上さん?」
「っ!!ちっ、近い!!近いです!!」

 遠い目になり、現在公開中の映画の撮影をしていた頃を思い出そうとしていた私に、敦賀さんの腹立たしいほど麗しいお顔のどアップが飛び込んでくる。瞬時に近づいてきた彼からこちらも瞬時に距離を取りながら、私は身を守るように胸の前で手を交差させた。

「そっ、そもそも…!!『あの日』のことは演技の練習だっておっしゃっていたじゃないですか!!」
「あの日って…。あぁ、君の『ファースト・キス』を俺がもらった「きゃ~~っ!!破廉恥ですぅぅううう~~!!!!」」

 大絶叫で敦賀さんが口にしようとした言葉を止める。

「…君の大声は本当に耳にくるな…」
「あぁぁっ!!すっ、すみません、思わず…!!」

 敦賀さんは私が大声を出したことにより、めまいがしたかのようにその場にしゃがみこんでしまった。
 芸能界は縦社会!!『尊敬する』ことはやめてしまったとしても、大先輩の聴覚を破壊してしまったことには焦らざるおえない。私は、慌てて彼の傍に膝をつき、手を伸ばす。
 
 途端に伸ばした右手は、彼の左手に囚われてしまった。

「っ!!??」
「全く。君って子は、本当に無防備だね。心配で仕方がない…。」
「だっ、騙したんですね!?」
「ん?いや、でも君の声で気分が悪くなったのは本当。だから、ちょっとだけ肩を貸してね?」

 非難の声をあげる私を完全無視して、彼は私を腕の中に抱き込んでしまう。

「つっ、敦賀さんっ!!」
「…あ~、一週間ぶりの最上さんだ…。」

 彼の身体の割に小さな頭が私の右肩にこてんとのせられる。

「あっ、あうぅぅ……。」
「クスクス…変な声……」

 楽しそうに肩口で笑う意地悪男。首筋にかかる彼の熱い息がとんでもなく心臓に悪くて、私ははくはくと口を開閉して妙な悲鳴を上げることしかできない。

「よくもまぁ、一週間、逃げ回ってくれたものだね?」
「だっ…だって…!!おっ、おかしいじゃないですか!!とっ、突然こっ…こっ、こっ…!!」
「ぶっ…!!コッコッコッって…。鶏の真似?」
「っ!!??ちっ、違います!!…ばっ、番宣が終わった瞬間に、突然、あ…『愛している』とか、つっ、『付き合ってくれ』とか…こっ、ここっ、告白みたいな……!!」
「…あ~~。そうだねぇ、君からしたら『突然の愛の告白』になるんだろうなぁ……。」

 口にするのも恥ずかしい言葉の数々を一生懸命に叫ぶ。そんな私に対して、一週間前に突然豹変した男は、飄々とした声で応じながら、羞恥に震える私の背をとんとん、と優しくあやすように叩く。

「あの時のきっ、キスだって、演技の練習だっておっしゃっていたじゃないですか!!」
「…あのねぇ。演技の練習で俺が女の子の大事な『ファースト・キス』を奪うと思う?」
「思いません!!でも、いじめっ子な敦賀さんならするかもしれないって、私、思って…!!」

 憎かった。悔しかった。簡単に女の子にキスをしてしまえる敦賀さん。そんな彼に対して、死ぬほどドキドキしてしまった自分自身が許せないほどだった。

 あぁ…!!今思い返しただけでも腸が煮えくりかえる……!!

「『どうしてあんなことを意識できるのか分からないな。』……。」
「!!??」

 今まさに私が回想していた信じられない破廉恥な行為をされてからの、プレイボーイ『敦賀蓮』の言葉。

「『こんなことで動揺するなんてバカバカしい。俺達、後でこれよりもっと濃いキスシーンがあるんだよ?乗り切れるの?』」
「…っっ」

 呆れ声でそう言われた時…全身から血の気は失われてしまった…。ひどい言葉の数々に、打ちひしがれた心。でも、彼に対する憎しみで奮い立ち、私はバカなヒロインを演じきってやったのよ…。この、胸の奥で育っていた想いを全て役に与えて。

 だから、今の私には『恋する女』の気持ちなんて一切ない。

「…泣かないでね…?」
「…泣いてません!!」

 また繰り返されたあの時の言葉。…身体が震えるのは、腹立たしいからよ。目から零れ落ちる水滴は……。そう!!怒りのあまりに充血して、生理的に零れ出たものなのよ!!
 あやすかのように私の背を撫でる男…憎いこの男を突き飛ばしたくて仕方がない…!!
…なのに、どうしてかしら、腕に力が入らない…。

「ひどい言葉をぶつけた自覚はあるよ。でもね、君、俺がああでも言わなかったら女優の『京子』として立ち直ってくれなかっただろう?」
「……っ!!」

 そんなことはない、とは言えなかった。

 …前にも受けた、あの感覚…

 何を見ても、聞いても、私の頭を占拠していく、『彼』。
 意識も何もかもが囚われて、その存在自体に侵されていくかのようになって…。

「…全く、君って子は。俺にあんなひどいことを言わせるなんて、本当に『悪い女』だ。」

 ぎゅっと今までより強く抱きしめられて、彼の香りが一層強く鼻腔を刺激した。

「わっ…私は……!!そんなこと頼んでいません…!!」
「うん、頼んでくれていないけれどね?だけど、あぁしなければ立ち直ってくれなかっただろう?他に方法があった?」
「…っ!!でも…!!でも、ひどい言葉でした……!!」

 キスなんかで意識する私は、『女』として面倒くさいと言われているようだった。地味で色気がないくせに、一人前に敦賀さんを『男』として意識している私を嘲笑うかのような言葉だった。

 ぶわりと、堪えていた涙が吹きこぼれた。…ニ度目の恋さえも、儚く散ってしまって。私は、悲しかったんだ…。

「うん、ひどい言葉だったね…。本当にごめん。」
「敦賀さんなんか、大嫌いです……!!」
「うん…でも、俺は君が大好きなんだ。」
「私に近づかないでください……!!」
「ごめんね、俺は君の傍にいたい。」

 否定の言葉を口にするほど、私を拘束する敦賀さんの腕の力は強くなっていった。…そのことを嬉しく思うバカ女が私の中にまだいることに、私は本気で悲しくなる。

「わっ…私っ……!!私は、もう恋なんて愚かなことはしないんです……!!一生、強く賢くたくましく、一人で生きていくんです…!!」
「そうか。…でも、俺は君と生きたいんだ。君と二人で、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に怒って…ずっと傍にいて、幸せになりたい。」
「もう、本当に嫌なんです…!!すっ、好きになって欲しいと努力するのも、一緒にいたいと追いかけるのも……っ!!」
「…うん。」

 母は、どんなに努力しても、泣いて縋っても私を置いて行った。支えになっていると信じて、運命の相手だと思っていたショータローには、ひどい言葉とともにあっさりと捨てられた。

…願うだけで無駄な想いなら…いっそ、全てを失くしてしまったほうが、いい…

「君は努力する必要はないし、追う必要もないよ。君に愛を乞うのは俺だし、君を追いかけるのも俺だ。だから君は、俺を受け止めるか、突き放すかしてくれたらいい。…今回は君に決定権がある。」

 敦賀さんは、まるで自分の中に私を取りこむかのように、ぐっと身体を押し付けてくる。…苦しいくらいの拘束は、でも、どこか安心してしまうものでもあった。

「…私は、敦賀さんとはもう関わり合いたくないんです。」
「ひどいな。少し前までは尊敬してくれていたのに。…どうして?」

 トクン、トクン…と、敦賀さんの鼓動が耳に響く。彼のたくましい身体で包みこまれ、彼の一部になってしまったかのような私。彼の鼓動が、彼の感覚が、感触が嫌でも私に植え付けられる。

「…だって、傍にいると、落ち着かない……。」
「そう?俺はこうしていると落ち着くよ。」
「好きだとか…そんなことを、簡単に言うんだもの……。」
「簡単なんかじゃないよ。君だけにしか言わないのに。」
「私の心を、めちゃくちゃにして…意識も何もかもが、囚われてしまうから……。」
「俺に、囚われてくれる?最上さん…。」

 あまりにもいい香りがして。頭がぼ~っとしてしまって…。ふわふわと、まるで夢をみているような感覚がする。そんな状態の私の耳元で吐息と共に囁かれる言葉。耳が捉える甘美な響き。

 こくん、と。肯いたつもりなんかなかった。

「最上さん…。」

 熱い吐息はなお耳をくすぐる。そして…敦賀さんが私の耳朶に、カプリとかぶりついた。

「ふに~~~~~っ!!??」

 ぞわりと背筋を駆け上った痺れのような感覚。それに驚いて私は奇声を発し、敦賀さんを突き飛ばす。

「なっ、ななななっ、なにするんですか~~~!!??」
「え?何って…。甘噛み?」
「みっ、みみみみっ、耳をかじるとか……!!人としてありえません!!このケダモノ~~!!」
「う~~ん、『男は皆ケダモノ』って言葉、的を得ている言葉だよね。」

「最上さんも俺以外には気をつけてね?」とキュラリと笑ってみせる敦賀さん。恐らく、今一番その言葉が相応しいのはこの目の前にいる男だわ!!

 敦賀さんは、にこりと笑うと両手を広げ、「おいで?」と言った。

「!!いっ、嫌です!!」
「え?なんで?」
「なっ、なんでも何も…!!あなた、今私に何したか分かっているんですか!?」
「うん。甘噛み。」
「……っ!!~~~~~!!!!」

 あっさり爽やか笑顔で答えられて、二の句がつげない。

「……敦賀さんの破廉恥!!」
「大丈夫、君にしか破廉恥なことなんてしないから。」
「なっ、何が大丈夫なんですか!?全然大丈夫なんかじゃありません!!」
「まぁまぁ。いいから。…ほら、おいで?」

「ん?」と。破廉恥紳士は、極上の笑顔で両手を広げて私を待っている。
…でも、私は一歩を踏み出すことができなかった。
 手を広げて私を待つ敦賀さん。優しい笑顔のこの人が、いつか私を軽蔑し、嫌悪し、去って行ってしまう時。そんな時が必ず来ることを、私は知っている。…私は、己の分を良く理解しているもの。

「全く。君は本当に強情だね。」

 身動きひとつできない私。そんな私をふわりと包む大きな腕。途端に落ち着く香りが私を包み込む。…癖になるいい香りのするこの場所では、私の思考は完全に停止してしまう。

「いいよ。君が立ち止ってしまったら、俺が君を捕まえるために走るから。…だから、安心して俺を好きになって?」

 心地いい場所。心臓は早鐘を打って苦しいのに、それでも彼の身体に包まれて、彼の香りを嗅ぐと、身も心も蕩けてしまう。
 
 あぁ…私はこの香りが…この場所が……。彼の、ことが……

「…すき……」

 思わず零れ出た言葉は、無意識のものだった。無意識から出た言葉は、空気を大きく震わすこともなく、極小の音量だった。

 ―――だ、大丈夫よ!!今のは、聞こえる声じゃない!!―――

 呟いた後に我に返り、慌ててしまったが、彼には聞こえなかったはず。…そう思いながら、私はそろりと私を抱きしめる存在に視線を映した。

「ひぃっ……!!」

 その私の視線の先には…!!

「最上さん…」

 艶やかに私の名前を呼ぶその男は……!!

「今の、本当?」


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