「えー、ほな、敦賀はんは京子はんのことデビュー前から知ってはるんですか」
「ええまあ、偶然ですけどね」
「初めてお会いした時はびっくりしました。敦賀蓮さんだわ!!?って」
にこやかに語るトップ俳優の横で、後輩タレントはどうしても縮もうとする身を必死に保っている。実際にはそのとき彼女は否定的感情をもって彼に相対し、なおかつ相手からも似たような以上の対応をされていたわけだが、もちろんそんな話題など出せるわけがない。少なくとも今のところは。
「ほなそれが、この頃いうことですか」
しかし、要子がにやりと笑ってラブミースタンプ帳を突き出した。それはかなり前の方のページが開かれ、-10点・ダメダメですのスタンプが燦然と輝いている、ように見える。モニタに映し出されたその内容に、会場中が大きくざわめいた。
「これひどうないですか、ふぇみにすとで名高い敦賀はん。しかも内容とか理由とかなんもなしで名前だけて、愛想もこそもあったもんやあらしまへんで」
「いや…それは、ちょっとした誤解で」
苦笑する蓮の横で、キョーコもひきつり笑うしかない。
「ほほう」
かつみがきらりと目を光らせた。再度ゲストににじり寄り、その肩を抱く。
「敦賀はんはあーゆうてはりますけど。京子はんから見ると、また違った話になりまへんのん?」
「いえ、その…先輩の仰る通り、誤解だったとしか言いようがないんですが」
「ぬーん」
いかにもつまらないと言いたげに鼻を鳴らし、司会者はますますキョーコに身を寄せた。
「ほな、何の誤解でしたん。さあさあ、ゆうてしまい。誰も聞いてへんさかいにな、ずばっと」
「絶対嘘ですってば~」
「何ゆうてん、うちは女の子には嘘つかへんで。ゆうか京子はん、ええ匂いする~。しかもやわらこうて抱き心地ええわ~。好っきゃ~」
「ちょちょちょ、あの」
抱きつかれて目を白黒させるタレントが、思わず救いを求めるように視線を送ったのはもう1人の司会者の方だった。しかしその要子は、すかさず自分も抱きついて来るではないか。
「あー、ほんまや。やっぱ若い女の子はええわあ」
「って、お二人だって若いじゃないですか~」
真っ赤な顔で二人を引き剥がしにかかるキョーコだが、その途中でふと気付いてしまった。先輩俳優が、やたらに綺羅綺羅しく微笑んでいることに。
何か怒ってらっしゃるー!!泣きそうになる彼女に、そんなところまで整美の極地としか言いようのない手が差し出された。
「ほらこっちおいで、京子ちゃん」
「えっ!?」
少女の上腕を、テーブル越しに大きな手がつかむ。キョーコはひょいと体が浮く感覚に戸惑ううち、いつの間にか蓮の隣に座っていた。
きゃー!!!高い悲鳴がいくつも上がった。いやー、だの、蓮んんん、だのと空気を揮わせる爆声の中、俳優はあくまでやわらかく微笑む。
「うちの後輩ちゃんは歩く純情さんなので、あまりからかわないでやって下さい」
「んっまああああああ!」
派手にのけぞる司会者コンビに笑いかける彼からは、怒りの波動が消えている。キョーコは小さく息をつくが、会場の騒ぎに紛れて誰にも気付かれなかった。
かつみが両手を拡げて観客席の方へと乗り出す。
「ちょお皆はん、聞かはりました?これですよこれ、フェミニストゆうんは、こー来はるんでっせ!」
「そろそろ時間もないゆう時になって、派手にかましてくれはっておおきにー」
「えーようちゃん、もうそんななん?うち、まだツッコミ足りひんわー」
「うちもやけどな、しゃあないねん。そろそろ締めにかかるで」
真面目そうに頷く相方の目配せを受け、かつみははーいと手を挙げた。
「ほなな、ほな、うちから京子はんに、最後の質問な」
「お、お手柔らかに」
縮こまるキョーコに、くるりと瞳を動かしたかつみが向き直る。
「さっき、誤解だった、ゆわはったやん。ほな今は敦賀はんのこと、どない了解しはってんのん?」
「え」
固まるキョーコと同時に、要子の方が蓮に尋ねた。
「可愛い後輩ちゃんは、ずっと後輩ですのん?」
「え」
その後輩に気を取られていたらしい蓮が、一瞬固まる。そして絡む、俳優とタレントの視線。
「あれ?ちょおちょお…?」
要子の声が浮いた。会場中が水を打ったように静まり返り…
流れ出したエンディングの曲は、爆発する悲鳴にかき消された。