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唐紅 -宝物-

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TOP SECRET 前編


 「はいっ、“やっぱきまぐれロック”4周年記念スペシャル生放送、盛り上がっております!今日は重大発表もありますからね~!」
 CM明け、観覧席からの拍手に包まれて声を張り上げる光の後ろでは、今日も大きな白いニワトリが愛想を振り撒いている。光の服に目を留め、慎一が尋ねかけた。
 「あれ。リーダー、重大発表てなん。俺ら聞いてへんで?それになんや、CMの間に着替えたん?」
 なるほど、ブリッジロックのリーダーはさっきまで白いTシャツ姿だったのに、いつの間にか学生服のようなかっちりしたラインの黒いジャケットを着込んでいる。
 「ああ、たまにはおしゃれさんしたろか思てな」
 「珍しなー。ゆうか、重大発表て何なん」
 乗って来る雄生を押し返すような仕草をして、光はちょろりと舌を出した。
 「まあ後で知れるんや、焦らんとき」
 「やらしー、気ィ持たすなー」
 光はさらりと笑い、傍らを振り返った。
 「はいとっとと次行きましょうね~。次は何やっけ?坊」
 ニワトリがぴょこりと跳ねながらホワイドボードを掲げて見せた。
 『TOP SECRET!!コーナーだよ!』
 「おっ、もうそんな時間か。きまぐれ最大の人気コーナー、出演者の抱えるヒミツに迫りまくる“TOP SECRET”!!リーダー、今日のゲストは?」
 尋ねる慎一に、光は腰に手を当ててえっへんのポーズ。
 「ふっふっふっ…」
 「お?何や何や?」
 人気タレントユニットのリーダーはにんまりしたまま、トコトコぷきゅぷきゅと坊を連れてステージの奥へ歩き出す。ゲストの登場口の横には、ウェルカムボード風に飾られた黒板が椅子に載せてある。そこに辿り着くと、光はチョークを取り上げて半身だけ正面に振り返らせた。だめ押しのにんまり。
 「リーダー、きもいで」
 「言うてろ。…さーて“TOP SECRET”本日のゲストはー…」
 カカカ、と小気味良い音を立て、黒板に読み易い文字が書き込まれていく。その名前は…
 『敦賀蓮さん!!』
 同時に、登場口に長身の影が差した。炸裂する絶叫の中を、トップ俳優がゆったりと歩み出てくる。着ているものは、フォーマルなデザインの純白のスーツ。胸に青い花を挿している。
 ゲストを席へ案内する役を負うニワトリが近付くと、彼はにこりと優しく笑いかけた。一瞬動作を止める坊が差し出した手(羽)を取り、慎一・雄生の待つソファへ向かう。手(羽)を繋いで歩く一人と一羽の背に隠れ、それを1.8秒見送り軽く目を伏せてからあとに続いた光の姿は誰にも気付かれなかった。
 「なんと!先頃婚約を発表なさったばかりの大物俳優さんですよ!?」
 「こんばんは敦賀さん、まあどうぞどうぞ」
 勧められてソファに腰を下ろしながら、蓮はお茶を淹れに行く坊を見送っている。
 「いやー、いいんですか先輩、こんなコーナー出はって。つか、まだ何か秘密が!?楽しみですねー」
 笑う慎一に、彼は眩しいような笑顔を返した。
 「まあ、俺は覚悟してここへ来ましたけどね?」
 「へ?」
 「お二人は聞いてないみたいですね、覚悟はそちらも必要だと思いますよ」
 ブリッジロックの二人は、同時に彼らのリーダーに視線を向けた。
 『リ~ダ~あああ?』
 「へっへー」
 光が鼻の下をこする。
 「今日はなあ、きまぐれ最大の秘密が、ついに!明かされてしまうんや…」
 「え。ほな、さっき重大発表とか言うとったんそれか。せやけど、なんでそこに敦賀さんが…
 『ってあ !!!』
 やはり慎一と雄生の呼吸はピッタリだ。声を揃えて叫ぶ二人の視線の先には、ちょうどコーヒーを配り終えた坊がいる。ニワトリが照れたように盆で顔を隠した。
 「まさか…」
 呻くような慎一の呟きに、観覧席から当惑と期待半々のざわめきが湧き上がる。
 「その、まさかや」
 重々しく頷く光の正面で、蓮がすいと腰を上げ坊の前に立った。視線を合わせ、両手を伸ばす。
 『え…』
 観覧者たちの溜め息に似た声。
 人々の注視の中、着ぐるみニワトリの頭がゆっくりと持ち上げられる。中から現れた顔は…

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